ブレーキフルードの交換は、なんとなく難しそうで、おっかなそう。
そんな風に思っている人は多いと思います。クルマにとってとても重要なブレーキに関する整備なので、軽い気持ちじゃイケナイことは確かだけど、ポイントを押さえてやればそんなに難しい作業じゃないこともまた確か。ここでは、ワンマンブリーダーを利用して、一人でできるブレーキフルード交換(エア抜き)をご紹介します。
なにはなくてとも、まずはジャッキアップ。
ブレーキフルード交換は、4輪のエア抜き作業(配管内に残った古いブレーキフルードの抜き取り)が必須なので、前後をリジットラックに乗せてしまいます。一輪ずつホイルを外して作業しても良いのですが、これだとパンタジャッキを使った不安定な状態で作業することになり、危険です。それと、ホイルの脱着は結構面倒な作業なので、一気にやってしまいたい、ということもあります。ジャッキアップ方法は別の機会に紹介するのでそちらを読んでね。
●ブレーキ整備虎の巻その1
不安に思ったら、その時点で一時作業中断。これでいいだろう、という適当な自己判断は御法度。わからないことは逐一識者に聞こう。最初の作業は、作業経験者に立ち会って貰い教えて貰いながら進めるのがベスト。
●ブレーキ整備虎の巻その2
ブレーキフルードは吸湿性がある。吸湿すればするほど性能劣化。作業は晴れた湿度の低い日に行うのがベスト。みるみる吸湿するほどシビアじゃないけど、吸湿=性能劣化ってことだけは覚えておこう。
●ブレーキ整備虎の巻その3
ブレーキフルードは塗装を犯す。塗装面に付着すると塗装の奥深くまで浸透し、修復不可能。塗装面に付着したら、慌てず騒がず素早く水で洗い流すこと。ヤカンなどに水を溜めておき、いざというとき洗い流せる態勢を確保しよう。
●ブレーキ整備虎の巻その4
ABS付き車両の場合、エア抜きに特別な手順が必要なことがある。整備書を見たり、ディーラーで聞いたりして、しっかり手順を確認しておこう。手順を間違うと整備しているつもりで壊していることになりかねない。ほとんどのディーラーは、整備書見せてって頼むと見せてくれる。ただ、あんまり忙しい時に行くと邪険にされることがあるので、暇そうな時を見計らって行こう。
まずはブレーキのエア抜きってつまり「ブレーキフルードの交換」なわけで、廃油を受けるモノを用意する必要があります。こんなタンクでOK。
受けのタンクを用意したら、実作業に向けてセットアップしよう。エア抜きは、マスターシリンダから遠いところから実施するのがお約束。このクルマは、マスターシリンダーが右前にあるので、左後ろからスタート。
キャリパに付いているこれがブリーダープラグ。下側はブレーキホース。
まずはゴムキャップを外す。ブレーキフルードラインと直結してる部分だから、まだ緩めちゃダメ。ブリードホースの装着が先。
こんな感じでブリードホースをセットする。先にメガネレンチを入れておくことを忘れないで。ここは、スパナなどのオープンレンチを使っちゃダメ。
ブリードプラグが歪んでしまう。メガネレンチやフレアナットレンチを使おう。メガネが逆さまに掛かっているのは、この方がナット部から抜けにくいから。車両によって異なるので、自分の車両にあったかけ方を探そう。
この車両は、ブリーダープラグが8mmと細いので、ブリードホースが作業中に抜けないようにタイラップや針金で縛ってやる。
ブリードプラグが10mmの車両ならほとんど抜けないんだけど、それでも作業中にブリードホースがすっぽ抜けてブレーキフルードを撒き散らしてしまうと後処理が面倒。面倒がらず確実に留めておくのがオススメ。
とりあえず、これで作業準備完了。古いフルードが貯まるタンクは、作業中にひっくり返らないように、どこかに引っ掛けておこう。
写真は、わかりやすいようにスタッドボルトに引っ掛けてるけど、ほんとはもうちょっとしっかり引っ掛けられるところ、たとえばサスアームの穴なんかに掛けておくと良い。
サイドブレーキがリアキャリパを利用するタイプのクルマは、サイドブレーキを掛けたままだとリア側のエア抜きが出来ないので、忘れずにサイドブレーキをリリース。
サイドブレーキはいろんな方式があるけど、とりあえずサイドブレーキはリリースしておこう。4輪がリジットラックに乗っているなら、サイドブレーキを掛けておく必要はないからね。
これで作業準備完了。
さて、ここから実作業開始。
まずは、キャップを開く。キャップはネジになっている車両がほとんど。古いクルマや外車は差し込み式のものもある。キャップにフルードレベルのセンサーが付いてる車両は、無理にねじってハーネスを切ってしまわないように注意しよう。エンジンルームは高温になるので、古いクルマのハーネスは硬化してることがよくある。
キャップを開いたら、フルードカップにある古いブレーキフルードをサクションガン(注射器)を使って吸い出す。吸い出す時に、フルードを全部吸い出さないように注意しよう。
フルードカップの下にはマスターシリンダーという部品があって、ここからブレーキフルードを押しだし、ブレーキが掛かるようになっている。ここにエアが噛んでしまうと、エア抜きがとても大変。だから、カップ内のブレーキフルードを完全には抜ききらず、液面を1mmくらい残しておくのがコツ。間違ってもカップ下の穴からフルードを吸い出すようなことをしちゃダメ。
特にABS(Anti Brake lock System)装着車両はいったんABSユニットにエアを送り込んでしまうとにっちもさっちも行かなくなってしまい、ディーラーや整備工場でないとエア抜き出来なくなってしまうこともある。
あと、フルードカップが汚れているからといって、ティッシュやウエスで拭き取るのも御法度。微細な繊維がABSユニットに流れ込んでしまうと、ABS不調の原因になる。ABSユニットは細かいフルード流路やプレッシャチャンバー、小さなソレノイドバルブがあって、ゴミには敏感。汚れを拭きとるならゴミの出ない整備用不繊布なんかを使おう。触らないでそっとしておくのが良いと思うけどね。
古いブレーキフルードを抜き終わったら、新しいフルードを補充する。飛び散らさないようにそっと入れよう。飛び散らしちゃったらキャップを閉め込んでから、周りを水で流そう。そのまましておくと塗装に染みが付いてしまい、悲しいことになってしまう。
ブレーキフルードは、MAXレベルまで追加しておこう。ブレーキフルードの補充が終わってもキャップはしない。吸湿するのは嫌だけど、エア抜きの最中にブレーキフルードが尽きてしまうとエア抜きじゃなくて、エア追加になってしまう。ブレーキフルード残量のチェックを頻繁に行う必要があるからだ。何度も言うけど、マスターシリンダーにエアを送り込んでしまうと、エア抜きの手間がとてつもなく大変になるので、絶対ブレーキフルードは切らさないで。
補充が済んだらゆっくりと2~3回ブレーキペダルを踏んでブレーキラインの中のフルードを送っておこう。これをやらないと以下でブリードプラグを緩めたときに一気にエアを噛む危険性がある。ガチャガチャやらなくていいのでゆっくり2~3回奥まで踏んでね。
新しいブレーキフルードを補充したら、ブリーダープラグを開く。このとき思いっきりブリーダープラグを開かないで、最小の角度だけ開くのがコツ。ブレーキフルードが抜けてくる角度だけ開く。
具体的には、少しだけブリーダープラグを緩め、ブレーキを踏んでみる。抵抗がありながらも、ブレーキペダルが少しずつ奥に入り込んでいく程度が適当。ブレーキがズコッと一気に入り込んでしまうようならブリーダープラグを開きすぎ。開きすぎるとブリーダープラグのネジ部からエアが混入し、ブリードホース内に泡が出てしまう。ポンピングは、ブレーキをゆっくり最後まで踏み込もう。
数回ブレーキをポンピングしたら、まずはフルードカップの液面を確認しよう。どのくらい減っているかを確認し、何回のポンピングでどのくらい液面が下がるかチェックしよう。ポンピング回数とフルードの減り方を把握しておけば、カップ内のブレーキフルードを切らさずに済む。
ブリードパイプ内のブレーキフルードの色が透明になり、なおかつブリーダープラグから泡が出ていなければフルード交換は完了。ブリーダープラグを締め込み、念のためキャリパー周りに水を流しておこう。
後は、ブリーダープラグ周りの水をエアで飛ばしたら、キャップを閉めて一輪完了。同じ手順で他のブレーキからもすべてエア抜きを行おう。
すべてのブレーキからエア抜きが終わったら、フルードカップのMAXレベルまでブレーキフルードを補充しよう。ホイルを取り付け、リジットラックからクルマを下ろしたら作業完了。
本当にしつこいようで悪いけどとにかく未経験者はせめて最初の1・2回くらいは経験者立ち会いのもとで’やろう。
エンジンオイルの交換で失敗しても車が走らないだけで他の誰にも迷惑はかからないけどブレーキの作業はへたすりゃ人の命を奪う可能性もあると言うことを忘れないでもらいたい。
経験者で無い場合は一人でいきなりやらないで欲しいとの旨は必ず伝えているくらいなんだ。
慣れるまでは2人での作業をオススメしている。