キャブの分解洗浄

走行の伸びたバイクや長期放置バイク、また安価で入手した中古バイクなどで、気になってくるのがキャブ関係の調子かと思います。

ガソリンタンクの錆とりでも書きましたが、まずはガソリンの腐敗などの理由での各フューエル関連の詰まり。そして内部に発生した錆のカスによる目詰まり。

またガソリンの腐敗はそのまま燃料系特有の頑固なカーボンの原因となります。燃焼に伴う黒いカスのようなカーボンは主にオイル系の蓄積カーボンや不完全燃焼による物なのですが、燃料がそのままドロっと固まったような固着物は通常の手段ではなかなか落ちず、多くの不調の原因となります。

今回は調子の悪いバイク復活のカギとなるキャブレターの分解洗浄を実践してみたいと思います。

作業を行うにあたり、いくつか事前に確認し注意しておく事があります。

●キャブの分解洗浄虎の巻その1
精密な細い経路を多く持つキャブレターの洗浄では、粗いブラシのような物の使用はご法度。傷を付けないように優しく洗うのが基本。

●キャブの分解洗浄虎の巻その2
完全分解のO/Hではガスケットの再使用は一切無しなので、必ず純正のオーバーホールキットを入手しておく事。

●キャブの分解洗浄虎の巻その3
強めのケミカルを使用する事になるので使用後の洗油の処理が出来るようにしておく事。基本的には通常の廃油処理と同じでOK。

●キャブの分解洗浄虎の巻その4
拭き取り等で使うウエスはなるべく毛羽立たない物を用意。せっかく行った分解洗浄での目詰まりの解消を妨げる可能性大。

●キャブの分解洗浄虎の巻その5
分解に伴うブラスドライバーやマイナスドライバーはしっかりした物を用意し、番手などにも注意して作業をおこなおう。通常整備とは全く違いプラスやマイナスのビスでありえないくらい硬いネジが多く出てくる。舐めちゃうとアウトなので根気よく作業。

●キャブの分解洗浄虎の巻その6
未経験の方は、洗浄後の組立は整備書無しではちょっと無理。フロートレベルの調整や各ジェットの調整等々、なるべく資料を集めてから行いましょう。特にキャブの機種ごとの違いによる組み付けミスは厳禁。

それでは実践してみたいと思います。

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今回はウチに転がっていたFCRを分解洗浄。スライドバルブを搭載したこのキャブですが片肺のスライドは完全に固着しておりました。

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洗浄に使うのはエイビットおすすめのキャブ洗浄キット。ケミカルで落とすのが基本ですので、こすったりとか一切無しでケミカルのみでの実践です。

キャブ分解

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キャブは大抵このようなプラスのネジによって組み立てられております。(HEX使用の機種もアリ)

普段よく回すプラスビスとは違い熱のカジリや最初から結構なトルクで締められている事もあり、分解の際の大きなネックとなる場合が多々あります。慣れている方なら問題は無いかと思いますが、初めての方はここで諦めてしまう方も少なくないみたいです。

でもしょせんネジな訳ですから頑張ればなんとか外れるんですね。ちょっと分解のコツを伝授します。

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まずはとにかく防錆潤滑剤を吹きかけます。1本ずつやっていてもラチがあかないので、これからバラす所には漏れなく吹いておきましょう。これらの潤滑剤には浸透性もありますので、吹いたらちょっとの時間待つのがコツです。

かなり固着している場合は前の日に吹いておいて翌日に作業とかでもOKです。最低でも10分くらいは待ってから作業しましょう。

ちなみにダラダラと垂れるほど吹かなくても大丈夫です。ネジの根元にしみ込む分を吹いてあげましょう。

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ドライバーの基本である「押し7:回し3」で緩む所はそのまま作業しちゃいますが、それでも緩まない箇所もあるかと思いますので、そういう場合は写真のように貫通ドライバーの登場となります。

このときドライバー単体で回す時とちょっと力配分が変わります。「押し5:回し5」って感じでしょうか。通常時よりも少しだけ回す事に集中するってな感じです。

ハンマーは出来るだけ優しく当てていきます。いきなりガンガン叩いちゃだめです。コンコンコンコンって様子を見ながら叩いていき(その時、手は回すことに集中)びくともしないようなら少し叩く力を強くしていきます。

当たり前ですが叩くときはその部品の強度も考えて叩きましょう。部品が変形するほど強く叩いてはダメですよ。

で、これをやっても緩まない時がありますが・・・・ここは根性です。とにかく緩むまで続けます。ちょっとやって諦めてしまう方がいますが続けていれば緩みますので頑張ってみましょう。しばらくやって気力が落ちてきたら一度休んで潤滑剤を吹き直して1服しましょう。

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上記の作業を工具でカバーしてくれるのがインパクトドライバーです。

これは叩いた瞬間に先端のビットが回りますので力加減がイマイチ分からないって方にはオススメです。この工具もいきなりガンガン叩かないでコンコンコンから始めましょう。

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だんだんと分解が出来てきたら次はフロートやリンケージに使われている樹脂部品を取り除きます。これはこれから行う洗浄のケミカルが樹脂やゴムを侵す成分の物なので、一緒に洗浄してしまうとマズイので外します。

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ジェット類とか簡単に外せる物は外し、後はどこまで完全分解するのかを考えます。

圧入されている部品は脱着に大きな手間がかかりますので、洗常時に特に問題にならない部品はそのまま装着状態で洗浄を行う事も検討してみましょう。

この辺はキャブによってかなり違ってきますし各人の判断となります。

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それとアイドルスクリューのような調整式のネジは締め込んであるねじ山を数えるか、何回転分締まっていたのかをメモしておくと後で組立時に苦労しなくて済みます。

まぁO/Hによって洗浄組立後の雰囲気は変わってしまうと思いますので、そのままのセッティングではダメな場合が多いですが、それでも何も指標が無い状態よりはかなりマシです。

いよいよ洗浄

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使用する洗浄剤はかなり強い物なので鉄かステンレスで出来た容器に分解したキャブを並べていきます。

この時ジェット類がごちゃまぜにならないように注意しましょう。出来れば付いていたキャブに元通りに戻すのが理想ですからね。

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あとはまんべんなくエンジンコンディショナーを吹きかけていけばOK。エンジンコンディショナーは主に燃料系の汚れを落とす成分となっていますので、今回のような燃料噴射部品の洗浄にはうってつけです。泡状で噴霧されますので部品に綺麗にまとわりつき頑固な汚れも落としてくれます。

※キャブレターは数種類の金属で構成されておりますし、構成部品の場所によっても汚れ具合が違う場合があります。比較的短時間で汚れが落ちるパーツもあれば、長時間漬け込まないと汚れの落ちないパーツもあります。

分解時に出来るだけ汚れを確認し部品レベルでの汚れに差がある場合は、別々に洗浄する事をオススメします。特に真鍮で作られる事の多いジェット類は汚れが落ちにくく管理も大変な為、出来れば本体部品とは別に洗浄したほうが楽かと思います。(今回の実践でも本体パーツは綺麗になりましたがジェット類は一回では綺麗になりませんでした)

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こんな感じでまんべんなく吹きかけたらあとは待つだけ。ただしエンジンコンディショナーは揮発性がありますのでちょっとした処理が必要となります↓

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このように布でも紙(毛羽立たない物)でも良いので上に完全にかぶせてしまいます。あ、サランラップでもOK。

この時、特にひどい汚れがある場合には少し柔らかめのブラシでこすってあげることも必要です。ここで紹介している豚毛のブラシ等を使い汚れを落としましょう。

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あとは待つだけ。エンジンコンディショナーも結構強い洗浄剤なので、このままほったらかしにしておくと洗浄によるシミが出てしまいます。(シミは問題無いのですけどね)たまに目視で確認しつつ綺麗になったら終了しましょう。ちなみにこの時は約1時間程度で終了しました。

※汚れの程度によりますが漬け置きは1~6時間が目安です。

あと洗浄剤の成分はかなり攻撃性の高い物なので素手で作業しているとあとでひどい目にあいます。ですので台所用のゴム手や写真のようなナイロン手袋等で作業するようにしましょう。安全ゴーグルの装着も望ましいです。

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分かりますでしょうか?汚れがこんなにも落ちています。

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この洗浄で使った廃液はかなり強い物なのでキチンと廃油として処理しましょう。

で、洗浄の終わった各パーツなのですが・・・エンジンコンディショナーがまだ付着してますよね。結構ベタベタと言うかヌルヌルした物なので、これを落とさないといけません。

ここで思いつくのはパーツクリーナーかと思いますが、実はこういった洗浄剤の成分はパーツクリーナーではあまり落ちないのです。で・・・↓

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こういう強めの洗浄剤成分を落とすのに楽なのが意外かと思いますがキャブレタークリーナー。油分を脱脂したりするのならパーツクリーナーでOKなのですが、こういう成分の物を綺麗洗い流すならキャブクリが最適。

また先程の洗浄で汚れがまだ詰まっているかもしれない細かな各経路の汚れもコイツでシューっと落としていけます。今回の洗浄のキモでもあるのでこの作業はなるべく丁寧に慎重に行ってください。

※キャブレタークリーナーは超速効性洗浄剤です。塗装面等に付着すると塗装を侵す可能性があります、ご注意下さい。

最後にまだちょっと気になる方はパーツクリーナーで吹いてあげれば更に完璧。エアー環境のある方ならばエアーで飛ばしてあげてもOK。

で、どんな感じになったかと言うと・・・↓

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洗浄前↑ 洗浄後↓

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今回はケミカルのみの実践でブラシ等でこすったりしてません。それでもこのくらいまでは綺麗になります。

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これも洗浄後なのですが、真鍮部品が若干シミっぽくなっております。これは最初の洗浄の段階でブラシ等で綺麗にこすってあげると綺麗に落ちます。精密部品がいっぱいあるキャブですので部品単位で気をつけつつ洗浄しましょう。

綺麗に洗浄が終わり組立後、キャブを装着しても調子が悪い場合等は細かな経路の目詰まりが完全に除去出来ていない可能性があります。それを防止する意味でもキャブクリでの洗浄の際はなるべく注意しつつ各経路を吹いてあげましょう。

キャブの組み立てに関しては、キャブの種類によって大きく異なりますので各自情報を集めてやってください。基本的にガスケットやシール類は再使用出来ませんので新品のO/Hキットを購入しましょう。また各ジェットやその調整は分解前と異なる場合も多いので、組み立て後は調整をしてください。