ハンドツールの花形的存在のラチェット。
現在では多種多様な種類が存在し選択肢も増えました。ただ、長年熟成されてきたラチェットでして姿形が多少違えど一部の特殊機構を持つラチェットを除けば大きく分けて2種類のラチェットタイプに分類出来ます。
ひとつは小判型と呼ばれる14~36ギアの切り替えレバーが付いているタイプ。そしてもう1種類がギア数が60~72ギアのコンパクトなヘッドが特徴的な丸形ラチェットです。
で、今回は特に日頃から問い合わせの多い丸形ヘッドタイプのラチェットの分解・組み付けを画像を交えて紹介したいと思います。
ちなみにこの丸形ラチェット。ギア数が細かいので「小判形よりも壊れやすい」と思われがちですが実際の最大トルクにたいした違いはありません。また壊れる場合も構造上ギア部分が壊れる事はありませんから修理費もあまり掛からないのが特徴ですね。
で、あまり派手な壊れ方をしないのが特徴ではあるのですが、たまに調子悪くなることはあります。
そんな時ユーザー心理としてなんとなく分解して調べてみようって事になると思うのですが、組み付け方法がちょっとだけ特殊なのでばらした拍子に元に戻せなくなるユーザーが多いんですね。
ですので年間を通しても丸形ラチェットの修理依頼のほぼ半数が「元に戻せなくなったので組み付けて欲しい」と言う依頼です。実際、バラバラの物が送られてくる事が多いですから、はい。
今からこの分解組み付けを紹介します。分かってしまえばとても簡単ですのでやってみましょう。
○分解・清掃
ちょうど手元に72ギアのUSAGのラチェットがありましたのでこれで実践してみます。ちなみにヨーロッパ系の丸形ラチェットは中身はほぼ同じ。HAZETやスタビレー、FACOM、USAG等、72ギアを採用している丸形ラチェットは中身は同じです。(ベータは昔は違うギアシステムでしたが今はどうなのか知りません)上記に当てはまるラチェットをお持ちの方は参考にしてみてください。
これがUSAGの72ギア。
FACOMと兄弟会社なので中身の部品も同じなのかな?同じかどうかは分かりませんが部品を流用することは可能です。
早速上部のフタにあるTORXを緩めます。
この時ラチェットの回転方向が同じだと緩めずらいのでネジを緩める方向と逆にしておくと良いですよ。
TORXが外れるとこのように一気にバラバラになります。この時、いきなりボロボロっと部品が出てくる事もありまので部品をなくさないように注意してください。
この時、画像でも分かりますが赤いのが破片みたいに付いてますよね?これネジロック剤のカタマリです。このゴミを何かが破損していると勘違いする人がいますが、全く問題ありませんので捨てちゃってOK。
で、そーっと中身を出したら取りあえず洗浄。パーツクリーナーで各部品を綺麗にしてあげてください。
ラチェットの分解作業は結構細かい部品を扱いますし、上のように洗浄も卓上で行う事になります。出来れば作業前にウエスや紙ウエスを用意してから始めましょう。これをやるだけでも部品の紛失を防ぐ事が出来ますよ。
○組み付け
上でも書いてますが修理を依頼される方の中で「部品を紛失してしまったかも?」と思われて依頼してくる方もいます。
それほど部品点数は多い訳ではありませんが、オープンな場所でとりあえず分解してみようと言う感じで開けてしまうと部品が飛び散ったりして面倒ですので、なるべく落ち着いた机の上とかで作業をお願いします。
ちなみに分解後の部品は以下の通りです。
左上から右に順番に・・メインギア本体、小ギア、ハート型スプリング、上フタとなります。
冒頭に書きましたが、丸形ラチェットは意外と頑丈で壊れません。ただしちょっとした所の不具合でうまく動かなくなる場合があります。
それが以下の部品。
上フタとハート型スプリングです。
特にハート型スプリングは丸形ラチェットのキモと言える部品でしてこれがちょっと曲ったりしてしまうとまともな動作が出来なくなります。その場合は修正とかではどうにもなりませんので部品交換となります。
またマイナーなトラブルとして上フタの矢印の部分に突起があり、ここでハート型スプリングを抑えているのですが、この突起が折れ曲がってしまうトラブルもまれにあります。
丸形ラチェットの故障はこの2点にほぼ絞れますので「なんかおかしい」と思い分解する事がありましたら、この2箇所をよく見て下さい。
ここまでで不具合等が無ければ組み付けに移ります。
ラチェット等の組み付け時に潤滑防錆剤を使用する方がたまにいますがやめておいた方がいいです。
丸形ラチェットの場合はその内部機構の特徴から少し粘度の高い物を使用した方がいいですので、エイビットとしてはシリコングリスをお奨めしてます。(ちなみにエイビットが推奨するだけでオフィシャルな意見ではありませんのでご了承ください)
丸形ラチェットの場合はこのメインギアの回りにペタペタとグリスを塗っていきます。(画像は分かりやすいように多めに塗ってますが少量で良いです)
側面部分の全てにグリスが行き渡るように塗るのがミソですね。あ、もちろん写真で見える半月状の平らな側面部分に塗ります。
グリスを塗り終わったら本体に収めてしまいましょう。
グリスが効いていればグリスの粘着力で落ちてこないと思います。ちなみにこの時、ラチェットの上下を確かめてください。(大抵メーカーロゴが上になるように組めばOK)
グリスアップはメインギアのみでOK。残りの部品には組み立てたあとラチェットをグルグル回転させていれば行き渡ります。
あとは小ギアをハート型スプリングを先に合体させてから写真のように差し込めば下準備はOK。
ここまでは誰でも出来ると思いますが、この後の組み付けで結構分からなかったりミスする人が多いみたいですね。
さて、いよいよ最終組み付けとなりますがこの時に黄色い矢印の部分のお互いの位置関係を確認しておきましょう。
上フタの突起の部分がハート型スプリングの内側に引っ掛かるように注意しつつフタを収めていきます。
コツとしては・・・
ハート型スプリングの内側に引っ掛かったのを確認出来たら少しスライドさせつつ抑えこむ事。この時手を離すとフタがスプリングのせいで飛んじゃいますので気合で持ってましょう。
この時、動作確認としてはフタを左右に回して正逆転の動作が出来るか確認して問題無ければOK。
あとは真ん中のTORXのネジを締め込めばOKなんですが・・・、この時ネジロック剤が使えれば尚最高。
まぁネジロック無しでもほとんど問題にはなりませんが気になる人はやっておいた方が良いですね。
で、何故ネジロックが必要なのかと言うと、ここまでこれを見ながら作業している人なら分かると思いますが真ん中のTORXをギュっと締めてしまうとラチェットが動きません。
真ん中のTORXネジがラチェットのテンション調整も兼ねているので組み付け後、一度ギュっと締めたら大体1/4回転戻ししてあげます。回転の硬さが調整出来ますので後はお好みで少し硬めや少し軽めとか出来ますのでお試しください。
ってな訳でギュっと締め付けて固定出来ない訳でして常時少し緩んだ状態になってますのでネジロックが必要となるわけです。(絶対に必要ってわけでもありません、実際私は自分用のには使ってません)
で、めでたく完成なのですがさっき書いた通り少しグリスを馴染ませたいのでソケットとかを付けてグールグルと空転させて馴染ませてあげてください。
分かってしまえばなんて事無い作業だと思います。遠方の方でエイビットに修理持ち込みが現実的では無いって方は是非お試しあれ。
※現在ハート型スプリング単品の入手が難しくなっております。当店でも修理を受けられない場合がありますのでご了承ください。