いまさら聞けないソケットのお話

手段と目的。

このふたつが入れ替わっちゃう事ってよくありまして、例えばみんなが大好きなオートバイ。
走るのが好き!とかいろんな理由があって手に入れたのに、いつの間にかバイクを何台も集めてたりとか……楽しく走るためのバイクがいつの間にかバイクの所有欲の方が勝ってしまうケースなんて結構ありますよね。

工具だって同じ。
工具の専門店をやっていると実際はほとんど使わないけど、カッコイイからなんて理由で購入してくれる人も結構います。
少しでも作業を楽にしようと便利な工具を求めているうちに、工具を揃える事の方が目的に変わってしまう人がいるわけです。
私だって工具のお店をやっているくらいですから、工具自体の魅力も良く分かりますし揃えたくなる気持ちもわかります。
あ、別にそれが悪いなんては思ってないですよ、昔から機能美とかそんな言葉があるように考えぬかれた工業製品にはどこか人を惹きつける魅力があるんだと思います。

しかしいざ集めてみると工具ってとにかく種類が多いんです。
現在の工具事情では、王道でありメインでもあるラチェット系工具でも差し込み角とかいろいろありますしね。
またラチェットで使うソケットなんて何を基準に選定すればいいのか分からないような物までいっぱいあります。
そんな種類な話の基本中の基本なんですけど、お店でよくある問い合わせがありまして

「6ポイントと12ポイントは何が違うんですか?どっちがいいんですか?」

って質問。
これちゃんと答える事が出来る人ってあまりいないんじゃないですかね。

ソケット6角12角のお話

6ポイント・12ポイント(以下6P/12P)とはソケットの内側が6角なのか12角なのかの違いなんですけど、購入時にどっちを買うか悩んだ事がある人もいると思います。

ソケット6角12角のお話

諸説はあるのですが見た目からして6Pの方がボルトナットをなめにくいのは分かりますよね。
12Pは6角を30度ずらしている関係で見た目だけでいえばなんだかなめやすそうな印象を受けると思います。
もちろん12Pのメリットだってありましてボルトナットにソケットを差し込む時にスピーディーにセットする事が出来ます。
実際ラチェットのように少し回転させて使うことの出来ないレンチ系工具(めがねレンチとか)では12Pが主流ですよね。

ソケット6角12角のお話
レンチ系は大抵12角になってますね。

あまり難しく考えないなら大体こんな感じで理解しておいて良いと思います。
工具のメーカーさんがわざわざ両方ラインナップするという事は両者にメリット・デメリットがあるという事ですからね。

○結局6P・12Pどちらを選べばいいのか?

しかし両方どちらも良いですよって事になると選べませんから、私は自分のお店では整備初心者さんには出来るだけ6Pを、中級者以上の人にはお好きな方を、とオススメしてます。

これには理由がありまして現在生産されているソケットは「面接触」というボルトナットをなめない工夫がされております。

ソケット6角12角のお話
ボルトの「角」に当てないようにしてなめにくくするのが面接触の理論です。

ボルトナットがなめてしまう原因のひとつが「徐々にボルトの角が減っていき丸くなっていってしまう」事なので、ボルトの角に工具が当たらないようにボルトの面に工具があたるような仕掛けが施されているわけです。
ソケットの内側の角をよく見てみると少し丸みを帯びているが分かると思いますが、その丸くなっている加工が面接触の仕掛けです。
(工具メーカーによって加工の仕方は違います)
そしてこのボルトナットの面の部分に当たるように設計された面接触のおかげでソケット山の浅かった12Pのなめやすさは劇的に解消されているんです。

しかしそのなめにくくなった面接触にもじつは弱点がありまして……

「ソケットをボルトナットに対して斜めに掛けると逆になめやすい」

んですね。

面接触採用の工具はたいていその効果を最大限に発揮するために、少し公差を大きめにとる傾向があります。
公差とはボルトにソケットをセットした時に少しカタカタする隙間だと思ってください。
このカタカタする隙間がボルトの面に当たる効果になっているわけです。

しかしこの公差のせいでほんのちょっとですがボルトに対して斜めに工具を差し込む事が出来てしまいます。

ソケット6角12角のお話
こんな感じで少し斜めに差し込む事が出来ます。

面接触の工具を斜めに差し込んで回してしまうと、ボルトの角とソケットの角が点で交わってしまいあっけなくなめてしまう事があるんです。
まぁ弱点といっても工具を正しく使えていれば問題はないのですが、作業に慣れていない初心者さんが斜め掛けしてしまうとあまりよろしくないわけです。

で、この工具の斜め掛けですが6Pだと構造上起こりにくいんですね。
(あと6Pは多少斜めになっても他の面が保持するので結果なめにくいのです)

ですので初心者さんには最初にオススメするのは6Pのソケットとなるわけです。
そして中級者以上の方の場合だと上記のような場面でも「こうなるとなめちゃいそう」という判断がつきますから12Pでも安心して勧める事が出来ますし、そういう前提を分かった上でやはり安心な6Pを選択するのも良いと思うわけです。
また「最初から少しなめかけ」なボルトナットの時はやはり6Pが間違いないですね。
実際整備の上級者ほどこの辺の使い分けがうまくて両方揃えて持っているって人も多くなります。

ちなみに自分の場合ですとショートソケットは使い勝手優先で12Pで揃え、ディープソケット(ロング)は6Pで揃えております。

ソケット6角12角のお話

ショートソケットは短いのでボルトナットに正対して真っ直ぐ使うのは難しくないのですが、ディープソケットは奥まった箇所に使う事が多く、目的のボルトが目視出来ない場面も想定して6Pにしている感じです。
またなめかけているようなボルトナットが出てきたらディープソケットを使えばいいので安心ですしね。

○ショートやディープソケットの選定は?

そして今の話でも出たソケットの長さ違いでもちゃんと揃えようとすると少し注意点があります。
ソケットにはいわゆるスタンダードな長さのショートとロングモデルのディープがあります。
またその中間サイズであるセミディープという設定があるメーカーもあります。

主な使い分けはナットを回す事を想定すると分かりやすくて、ナットが付いている真ん中のネジ部が飛び出ているような場合だとショートソケットではソケット自体の全長が足りずにナットまでアクセス出来ない場合があります。
そういった場合にディープソケットが必要になるんですね。

ではオープンスペースで使い事が多いバイク整備のようにあまりそういったネジがない場合には必要ないかというとそうでもなくて、ラチェットや差し込み式のT型レンチの長さ調整的意味合いで使っている場合もあります。

例えばラチェットに延長のエクステンションバーを取り付けて、その先にショートソケットをつけるのと、ラチェットにディープソケット1個をつけるのでは構成がシンプルな後者の方が使い勝手が上だったりします。

ソケット6角12角のお話

なのでメインで使うサイズだけでもいいので余裕がある時にディープソケットを数個用意しておくと作業の幅は広がります。

そしてここでの注意は「メーカーごとにソケットの設定全長が違う」という点です。
同じサイズのショートやディープソケットでも各メーカーごとに全長が違うんですね。
※ショートやディープソケットの話は過去記事でも詳しく書いております↓

https://www.abit-tools.com/blog/?p=9734

ですので手持ちの工具だけの基準で他社ソケットを追加購入する場合に長すぎたり短すぎたりしないように確認しておいた方が良いと思います。

そうそう実は面接触の構造でもメーカーごとに違いがあるんです。
現在はほとんどのメーカーに面接触の機構が採用されていますが、各メーカーの面接触に対する考え方は少しずつ違います。

どのメーカーも「ボルトの面部分に当てて回す」という概念は同じんですけど形がかなり違うんですね。
そして実際に使ってみると良いメーカーとちょっとイマイチなメーカーとかもあるんです。

そういったメーカーごとの造りの違いや設計思想の違いなんかにも興味を持って見てみると工具や整備をもっと楽しむ事が出来るかもしれません。

RECOIL(リコイル)キットのススメ

手から伝わるいやーな感触。

ネジ山がおかしくなってムニューだったりズルーだったり、ネジ山を壊してしまうのは誰でにもある事なので仕方無いのですが、やっぱリカバリーとかまで考えると憂鬱ですよね。

そんな時に便利なのがネジ山を新規で作り直せるヘリサートとかリコイルの存在。(名前はメーカーごとに違うだけでほぼ同じ物です)

RECOIL キット各種

当店で正規に取り扱いがあるのはリコイルキットなので今回はよく質問がくる事を重点的に説明してみたいと思います。

今現在、最新のリコイルキットはこのような入り組みになっておりまして…

・パケット(ネジ山になる部分)
・挿入下地用タップ
・パケット挿入工具
・パケット端部折り取り工具
・下穴用ドリル

で、これ見るといわゆる肝心な「パケット」だけあれば後はなんとか自分で揃える事が出来るのでは?と思う人が多いみたいでして。
「パケットだけ売ってください」
と言われる事が結構あります。
もちろん補充用としては問題ないのですが…。

そうではなく節約のためにそうしようとしている人もいるようでして、そういう場合には注意点をお伝えしております。

まず。

この挿入治具がないと最後の折り取りもふくめ作業的にはかなり困難になる点。

また。

リコイルドリル

下穴用のドリルと専用タップ。
これも普通のモノではありません。
まぁドリルはまだ大丈夫なのですが…タップは普通の切削タップではなく「転造タップ」(ロールタップ)というのが付属します。
(※特にパチ物の製品はこのドリルとタップの性能が低いので注意です)

これは簡単に説明しますと
──普通の切削タップは下穴に対してネジになる凹み部分を削り取ってネジ山にしますが、付属の転造タップは「寄せて上げる」みたいな感じで凹ませながら凸部分を作っていくタップになります──

これつまり「切り粉」が出ないんです(そりゃ多少は出ますが)
ドリルも切り粉の排除が手前に抜けるようになっているので、壊れたネジ山を作り直す際に「向こう側」に極力切り粉を落とさない配慮がされたセットとなっているわけです。
またそもそも切り粉だけの問題でもなく、パケットの下穴となるように設計されてますので「リコイル用専用タップ」として認識して頂いてOKです。

整備に興味がある人がこのページを見ていると思いますので、あとは分かると思いますが。
セットで買ってしまえばこの価格で済むリコイルですが、後日「やはり治具がないと無理だった」と単品で揃えていくとかなり高額になってしまいます。
別に無理にセットを押し売りしたいわけでなく、結果として安く済む、また作業が確実に行えるものをオススメしたいのだということをご理解くださいませ。

まぁもっと簡単にいえば最初はセットで買ってねーって事です。

撥水防汚コーティングワックス モリス5000

現在取り扱い中のシフトの撥水防汚コーティングワックス『モリス5000』を実際に使ってみました。
この手のコーティング剤はいろいろ使っているのですが、基本的に「少しでも楽したい」ために使っているわけでして、個人的には「施工は面倒でも耐久性が良い」ものよりも「耐久性はそこそこでいいので施工が楽」なケミカルが好きだったりします。

主な理由はもちろん面倒ってのが一番なのですが、他にも超耐久のケミカルは施工が失敗した時にわりかし取り返しのつかない事態になったりもするので、洗車数回に一回使うくらいの気楽なケミカルが安心して使える印象です。

で、今回試したモリス5000もまさにそんな「気楽系」のケミカルな印象でした。

モリス5000

シフト 超撥水・防汚艶出しコーティングワックス モリス5000FS

使い方は簡単で「洗車後の濡れているボディや各所にそのまま吹きかけて塗り伸ばし」その後「乾いた布で拭き取り」で終わり。
ここで対象が濡れているのが結構重要でして、内装とかで濡れている状況が作れない時には濡れ雑巾とかで塗り伸ばすようにしましょう。
まぁ外装で使う時は洗車後の濡れているままの状態で吹いてあげて拭き取ればOKってな感じです。

実際に自分で使ってみて第一印象がとにかく「簡単で楽」ということ。
その印象のもとになっているのが対象物を選ばない点です。
塗装面のボディはもちろん、樹脂パーツやガラス面でも問題なく使用出来ます。
これって「マルチに使える」という便利さというよりは、吹付け時にあまり気にしないでパパパーっと適当に吹き付けて拭き上げが出来るという安心感が強い気がします。
コーティングやワックスによっては樹脂パーツにつくと白くなっちゃうものも多いのですがそういう不安要素はほぼありません。

撥水はこんな感じの水玉コロコロ系。
ですので特にガラスは効果抜群でしてガラス面の撥水コートとかも面倒な人には一石三鳥くらいな感じ。

モリス5000

あと私の車の黒い樹脂パーツは少し白っちゃけてきてたのですが……

モリス5000

そこも塗ってあげるとこんな感じに。

モリス5000

ドアノブ部分も塗装面と一緒にサササっと施工。
こんな感じで異素材が組み合わさっているような箇所でも気を使う事なく使えるのは個人的に評価が高いです。

ちなみに塗装面へのワックス効果は「そこそこ」です。
過度な期待をするとがっかりするかもしれませんが、個人的には十分だと思ってます。

モリス5000FS

あとこういったドアモールというかウェザーストリップに塗るのも効果絶大です。
もともと雪国でのドアモール張り付き防止として開発された由縁がありますので、寒くなるとバリバリっと張り付いてしまうゴム系の養生にもかなり便利に使えます。

他の用途ではクリアスクリーン等があるバイクとかにもすごくオススメです。
特にバイクは自動車のように塗装面が広いわけではなく、むき出しになったパーツ類が多いのですが、そういうところにもかなり気楽にコートしていけます。
またガラスやスクリーン等への効果が絶大でちょっとびっくりするくらいクリアに施工出来ます。これは副次的効果としてはかなり嬉しいですね。

そんなわけで洗車ガチ勢にはちょっと物足りないかもしれませんが、お気楽派な人にはかなりオススメです。
実際店舗ではリピーターさんも多いですし気になった方はぜひお試しくださいませ。

2022年始まりました

2022年正月

あけましておめでとうございます。
1月4日の本日より2022年の営業を開始いたしました。

本年もみなさんと同じ目線に立った肌感覚で気になる工具やおすすめ工具を紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

 

4日間もお休みさせて頂き心身共にリフレッシュ出来ました。
あまりまとまったお休みをとらない私はいわゆる「休みボケ」みたいなのって無縁かと思ってましたが、さすがに今日の一発目の営業はアイドリングが必要な感じでしたね。

それではあまり興味はないかもしれませんが私のお休み奇譚を少々。

2022年正月

まずは大晦日。
すいぶん前に出たきり「大晦日くらいゆっくりしたいよね」って事で敬遠していた年忘れエンデューロレースに参戦。
前の日から楽しみにし過ぎてしまい朝の5時に目覚ましかけたのに1時半に起きてしまうハッチャケぶりw

2022年正月

数人チームでリレー方式なんですけど、スタートライダーだった私は極寒の中整列。
すると知り合いがあちこちから声掛けてくれて気分は最高潮に盛り上がりました。
朝から3時間のレースなので午後1時には全て終わって撤収。

2022年正月

急いで帰宅してそのまま家族と宴会。
カミさん特製の年越し蕎麦食べて「3・2・1 ジャーンプ」して無事に年を越しました。

元旦は親戚を回ったり、逆に大きくなった子供たちが帰省してきてワイワイしたりして。
とにかくずっと酒呑んでて終了。(画像なし)

2022年正月

そして1月2日は毎年恒例の仲間内の初走り会へ。
実は昨年末に観たモトクロスレクチャーの動画に触発されてライディングの基本フォームの改善を試みていたのです。
この日はちょうどお仲間に写真を撮ってくれる人がいて撮ってもらいました。

2022年正月

……感動。
ここ1ヶ月くらい休みの日に乗り込んでいた成果が出てるー!
(キメル君写真マジでありがとう)
もうね、結構な年数基本フォームで悩んできたんですよ。
その度に「ここはこうしないと」とかいろいろ教わってきたのですが、少し自分の理想に近づけました。

そして1月3日、お休み最終日。
実はこの日だけ何も決めてなくて次の日の開店に合わせて店にいって仕事しようかと思ったのですが……
「いや!仕事はしない!」
と心に誓っていたのでとりあえず自宅でゴロゴロ。
バイクにかなり乗り込んだので筋肉痛も酷いし「今日くらいはネトフリ三昧でもいいかなー」とか考えたのですが。

結局ガレージに行って昨日まで遊び倒したバイクをガッツリ洗車して整備して、最後はガシガシ磨きまくって1日終了。

うん、わりと満足。

夕方になってカミさんが「今日くらい外食しよう」と言ってきたので出掛けましたが、どこもすっげぇ混んでて嫌になってしまい近所のネパール料理屋(空いてるw)にいってお休み最後の晩餐。

これにて私の長い4連休が終わりました。

振り返ってみると本当に楽しくて幸せなスタートを切る事が出来たと思います。

こんなバイク乗って酒ばかり飲んでいる工具店の店主ですが、2022年もお付き合いどうぞよろしくお願いします。

追伸:新年初営業に多数の来店及びWeb通販の注文ありがとうございました。
マジでちょー感謝しております。