プラスのネジに対する工具、いわゆるプラスドライバーは工具の歴史の中でもメーカーの創意工夫が多く見て取れる良い素材工具のひとつだと思います。
ネジの構造上「カムアウト」と呼ばれる上に滑りながらネジを舐めてしまう現象をいかにして防ぐのかが命題となっているので改善へのベクトルがわかりやすいのというのも比較対象としては面白いかな、と。
プラスのネジに対しては「押し7、回し3」という言葉があるくらいカムアウトに対する自己防衛が大事だというのは分かると思いますが。
工具のメーカーとしては「どうにかしてカムアウト自体」を防ぐ方法がないのか──というところが工具作りに重要になってくるわけです。
過去にもACRビットと呼ばれる工具側に滑り止めのような溝を掘ったり、今回紹介するダイヤモンドの粒子を付着させカムアウトの原因になる滑り自体を防ぐ方向に進化を続けてきました。
実際Weraのダイヤモンドドライバーは一定に評価がありますしね。
もちろん滑りを防止するというだけでなくPBのように下手なギミックを付けずに精密な公差で対応しているメーカーも多いです。
・PB スイスグリップクラシックドライバー
このメーカーのプラスドライバーの先端は画像のように黒く仕上げられておりますが、これは先端部分に何かしらの加工がされているのではなく。
なにもされてない
なのです、実はこの黒い部分はメッキ加工で起こるメッキの厚みでの公差のズレも嫌ってほぼ無加工(黒染)に仕上げる事を徹底しております。
この精密な公差を誇るPBは無加工先端ではあるもののネジにがっつり食いついてくれて、なめにくいドライバーを実現しているわけです。
このように各工具メーカーによって先端の加工や考え方に違いがあるのが面白いですよね。
で。
今回のお話の主題に戻りますが。
ダイヤモンド粒子を付着させたドライバーも「ある一定」の効果があると書きましたが、そのある一定とは経年劣化による著しい性能劣化です。
これはACRにも言えるのですがギミック自体が落ちる・薄くなる事によって初期性能が出せないだけでなく、ただの作りの甘いドライバーになってしまうのです。
実際にガンガン使っているプロメカさんなら大体1年とかでダメになるのではないでしょうか。
それではなぜ今回このダイヤモンド粒子のドライバーを取り上げたかというと。(ふぅやっと本題)
・ANEX ダイヤモンド龍靭ビットタフ プラス#2
このアネックスのビットがなかなかすごいって事をお話したかったわけです。
あくまでも電動用の両頭ビットなのでハンドツールメインの車両整備の人には響かないかもしれませんが「プラスドライバーとしての実力」をみれば試しに買ってみても損はしないと思います。
ダイヤモンドドライバーのメリットは「ネジに食いついて滑らない」事です。
それによってカムアウト自体を防ぎネジを舐めずに回せるのですが…
表面に付いたダイヤモンドが落ちたりすると一気に性能が劣化するのが弱点だと思われてきました。
しかし。
ANEXの開発担当に聞いた話は少し違っていまして──
実は食いつき自体がすごくプラスドライバーの先端部分の応力に逃げ場がなく、徐々にですが先端がねじれてしまうらしいです。
目視で分かるくらい捻れれば使用限界がわかりやすいのですが、パッと見ではわからないくらいのねじれでもプラスネジとのフィッティングは悪くなり、結果なめてしまう現象がおこるとの事。
そこで取った策が「ねじれないように硬いビットにする」という方法です。
一般的に工具鋼の硬さはHRCで57~59くらい。
これが電動用のビットとかになると60くらいとの事。
ところがこのビットはHRC62.5というカチカチ仕様にして本体のねじれを防ぐ事に成功しました。
でもここで心配がひとつ増えますよね。
そう硬くつくった事によるビットの破損です。
金属というのは簡単にいうと硬くしすぎると割れやすくなります。
なので工具鋼として58くらいが採用されている理由も「割れにくく粘る」硬度がこれくらいなのだと思います。
それではこのビットはすぐにわれてしまいダメなビットなのかというと……
そうではありません。
その秘密が「電動用ビット」だという点。
近年の電動用ビットというのは電動工具の発達によって「いかに割れないように作るのか」というのも課題のひとつでした。
あんな細いビットに40V仕様の電動工具とかがドガガン!と大トルクで回すのですからそうりゃそうですよね。
そしてそこで各メーカーがアイデアで対応したのが「トーションビット」という構造です。
上の画像でもビットの真ん中あたりに黄色いカバーのようなものが見て取れると思いますが、この中側は細くわざと少しねじれるようになってます。
このねじれをわざと作る技術によってビットが割れずにすむようになったわけです。
ここまで聞いてなんとなく分かったかと思いますが。
・すべらないダイヤモンド粒子
・ねじれない最高硬度(62.5)の硬い素材
・割れない工夫のトーションバー構造
このみっつの相性がお互いのデメリットを消し合っているおかげでこのダイヤモンドビットの真価が発揮されております。
ってなわけでも今店舗ではこのビットの実物見た方からかなりの絶賛をいただいております。
地味な工具ではありますが「プラスネジをなめにくい」というのは誰もが欲する工具のひとつだとも思います。
ぜひ一度お試しくださいませ。
動画も撮ってみました。